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ウミガメが海に帰った日

ちょっと前の話になりますが、10月の終わりに西表を台風が通過した後のことです。
荒い波で浜に打ち上げられ、寒さでほとんど動けなくなっていたアオウミガメの子供が、島の方に保護されてセンターにやってきました。
ほとんど動かず、よーく見なければ生死も分からないような状態でしたが、温かい水に入れて一晩経つと、首を持ち上げられるようになりました。

それから何日か、注射器で流動食をのどに押し込まないと何も食べない日が続きました。
ある日、前夜獲ったばかりの新鮮なエビと小魚の切り身を水槽に入れてみたところ・・・

すごい勢いで食べ始めました。それまでは買ってきた冷凍物を与えていたのですが、鮮度が気に入らなかったのでしょうか?
一口目を食べてくれたときは感慨深いものがありました。
ようやく海に帰れる希望が見えてきました。
そして更に約1週間。
11月14日、地元の方のご厚意で、沖に船を出してもらい、そこから放流しました。
船からの放流。あれ?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
子ガメの放流というと、夜の砂浜から「いってらっしゃい」と手を振って見送るイメージが強いのですが、今回の個体はすでに砂浜から沖に出るのは経験済みの個体です。
普通ウミガメの子供は、孵化して砂から出てくると、一斉に海に向かって歩き、波に逆らって泳ぎます。
休まずに数日間、何も食べずにひたすら泳いで沖に出ます。
これは子ガメ達に昔々からインプットされている行動で、この時期をフレンジー期と呼びます。
それが過ぎると泳ぎ続ける衝動は低下し、子ガメ達は沖で漂う流れ藻などと一緒に、海流に乗って受動的に流されて行きます。
今回放流した個体は、その大きさから、すでにフレンジー期が過ぎ、波に逆らって自力で沖へ行くのが難しい時期になっていると考えられたため、出来るだけ負担を減らすために沖から放流したのです。

船から下ろした網をそっとはずしてやると、いったんはふらっとしたものの、その後力強く波と風に逆らってはばたくように泳いで行きました。
ウミガメの保護や放流に関しては、色々な意見があります。
センターでは、人為的な原因で傷ついたり弱ったりした野生動物の野外復帰を手助けしています。
今回のウミガメについては、本当にその個体が生き延びる確率を上げるのであれば、ある程度大きくなるまで飼育してから放流というのが良かったのかもしれません。
しかし、今回のウミガメの衰弱は自然の摂理で起こった可能性もあります。
それを攪乱することを考えると、最初から助けないという選択肢もあったでしょう。
しかし助けて下さった方の思いも含め、色々な要素を考えた結果、この時期の個体として健康な状態になってから放流、あとは自然の摂理に任せるということにしました。
人間が野生に関わる以上、本当に正しい答えは1つにはならないのだと思います。
今後も議論がなされるところです。
(浅利)

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